木と温もりが巡る町。北海道下川町でノマドな働き方を体験してみた。[PR]
いつでもどこでも仕事ができる。
ネット環境と会社の制度が整備され、PCやスマートフォンを介したリモートワークが今全国的に普及し始めています。移動の時間をゼロにまで短縮し、世界中どこの誰とでも一緒に仕事ができる。まるでドラえもんの漫画に出てくるような面白い時代になってきたなと毎日肌で実感しています。
しかし実際問題ツールとしての下地は整ってきていますが、まだまだ本当に「どこでも仕事ができる」という方は現実的には少ないでしょう。会社の制度の問題だったり、セキュリティの問題だったり、人間関係だったりと理由は様々だと思いますが、単純に「まだ慣れていない」という会社も多いのではないかと思います。
話を聞いていると「やったことがないからなんとなくそのまま」という場合がほとんど。実際僕達の会社「drip(ドリップ)」もまだまだ完全にどこでも自由という環境ではありません。ですが、身軽かつ事業の内容的にも場所の制限がない会社なので、僕達がまずは実際に色々なところで働いてみて「どこでも働ける」という実例を表していこうと考えています。
リモートワークの流れが広がれば、通勤の満員電車がなくなるかもしれないし、若者が好きな地元を捨てて都会へ出て行かなくてもよくなるかもしれない。
少しずつで良いから「どこでも働ける」という流れを作っていければと思います。
日本の最北端で仕事をすることに
いつでもどこでも働いてみたい、そんなことを思って月刊モノグラフ2018年2月号「もっと自由に羽ばたいて」を書いたところ、何ともちょうど良いタイミングで「北海道で働いてみませんか」というオファーが。まさかこんなに早くチャンスが訪れるとはと、二つ返事で快諾し飛行機を予約。
旅の道連れはいつものfukulow。
空港へ向かうモノレールから、都会の街並みへしばしの別れを告げます。バイバイ東京。
羽田空港から飛行機でたったの2時間。あっという間に北の大地へと足を踏み入れることになりました。
北海道下川町へ
今回僕達が訪れることになったのは北海道上川地方にある町、「下川町」。旭川空港からさらに車で北上し、2時間ほど走った先にある小さな町です。644平方km、東京23区と同じ広さの土地に住んでいる人口はわずか3400人。9割が森林に囲まれた大自然の真ん中で人々が暮らしています。
本格的に働き始める前に「まずは町のことを知ってほしい」と下川町役場の方に車に乗せてもらいぐるりと町を一周することに。
北海道の冬ということもあり予想はしていましたが、辺り一面どこを見ても雪、雪、雪。音のしない静寂の世界がどこまでも続いていました。
木が巡る町、下川町
先程伝えた通り、下川町の9割は「森」が広がっています。なので必然的にこの町では林業が盛んで「木」と寄り添った生活を営んでいる人が多く住んでいます。
中でも下川町の至る所に感じるのは「循環」の考え。
木を伐採し、大きな幹は建築用の木材に、枝や間伐材は木工用の素材や割り箸に、葉はアロマオイル、さらには、使えない木々は、チップにして木質バイオマスとして熱供給するなど、森の恵みを余すことなく使うカスケード利用に取り組んでいるとのこと。いつまでも持続可能な仕組みが整っているモデルとして、各地から視察が訪れるそうです。
一の橋 バイオビレッジ
「循環」を実際に間近で体験したのは下川町一の橋という場所にある「バイオビレッジ」という施設。
この施設は複数の住居が寄り集まっている施設で、それぞれが一箇所に集まることによりエネルギーを効率的に使うことができる仕組みになっています。
それぞれのセクションはこのように通路で繋がっているので雪が多い下川町でもお年寄りの方が住みやすい構造になっています。確かに毎日雪かきするのは大変ですもんね。
最近開発がされたからか施設の端々にモダンなデザイン性を感じます。こういうポイントは結構大事。いくら環境が整っていても見た目がイマイチだったら若い人は訪れませんからね。格好いいとか、お洒落というのはそれだけで価値がある。
バイオマスで巡る温もり
この「バイオビレッジ」の家々を繋いで暖めているのがこの「木質バイオマスボイラー」による温熱循環システム。サンダーバードの基地のような格好いい外観で少しテンションが上がりました笑
中に詰め込まれているのは林業の各工程で生まれる小さな木片達。通常ならゴミとして捨てられてしまうものですが、下川町ではこれをエネルギー源として家屋の暖房に当てているとのこと。
この大きなボイラーで木片を燃焼させ、温水を作りそれをパイプで巡らせることで各部屋が暖まるという仕組み。それぞれの家屋が集合して繋がっているからこそ実現できるアイデアですね。
バイオマスの施設の近くで可愛い鹿に遭遇。穏やかな顔をしている…。
地元のお店で深い夜を。
一通り下川町の街並みを案内してもらった後は地元の人達のお話を直接聞きたいということで一緒に夕飯の食卓を囲むことに。
人口3400人という小さな町だからか、お店の方とお客さんの距離もとても近い。「おばちゃん今日も来たよ。」「今晩は何にするかい?」と親戚のような感覚で話をする下川の人達。都会にはない暖かな繋がりを感じます。
美味しい料理を楽しみながら、この土地への色々な思いを聞かせてもらいました。雪のこと、町のこと、これからの若者のこと。
下川に住む高校生は進学の関係でそのほとんどが、一度街を出ていくそうです。それは仕方のないこととして、彼らが戻ってくるにはどうしたら良いか、どうしたら戻ってきたくなる町づくりができるのか、とお酒で顔を上気させつつも、真剣に話し合う下川の人達。
深い事情は知り得ませんが、こういう真面目に町の未来を考える人達がいるのならば、きっと大丈夫だろうという不思議な安心感がありました。
一方、下川という土地に良さや縁を感じ、移り住んでくる人や戻ってくる人もいて、そのバランスで街が成り立っているとのこと。サラリーマンを辞めて鹿肉のジビエ事業を始める人、木工用のコワーキング作業スペースを作りたいという夢を持ちUターンしてきた若い夫婦、夏場のリモートオフィス先として検討しているIT企業。
小さな町ですが、そこにいる人達の「新しいことをやってみたい」という熱意が強く応援する風土が確かに下川にはありました。人の熱意が温もりとなって、また新しい人へと繋がって巡っていく。
ヨックルで朝から仕事を
1日目は夕方に到着し、一通り町の説明をしてもらったのでいよいよ2日目は本格的に作業を始めることに。宿泊した森のなかヨックルという施設がWi-Fiもあり広々したスペースだったので午前中はこちらで作業をしていました。
お仕事前にまずは腹ごしらえということで近くにあるやない菓子舗という洋菓子屋さんで美味しいと評判のパンを。
甘いクリームパンを苦味の強いコーヒーと口の中で溶かし合いながら胃の中に流し込み朝の栄養補給。
前日に来ていた仕事のメールをさばいたり、写真の現像をしたり、次回の提案の企画書などを相棒のMacbook12インチでテキパキと終わらせていきます。朝のこの時間が一番集中できる。
窓が大きいので陽の明るい光がさんさんと注ぐのもまた気分が良いですね。自宅よりも落ち着いて、かつ前向きな気持ちで仕事をすることができました。いいですね、ヨックル。
雪の中の小さな隠れ家カフェ「MORENA」で作業&お昼ごはん
作業も一息ついたところで、車を少し走らせ雪の中の小さな隠れ家カフェ「MORENA(モレーナ)」で昼食を食べることに。
ここは別途記事でも書きましたが、世界一周を経てこの下川町に辿り着いたというマスターが経営している古民家レストラン。インド人にフラメンコギターを教えた代わりに作り方を教えてもらったというインドカレーが絶品の看板メニューです。
ここでもお昼を食べた後にコーヒーを飲みながら少し作業をしていきました。
北海道下川町、雪の中のお洒落カフェレストラン「MORENA(モレーナ)」
モミの木からエッセンシャルオイルを作る「フプの森」
カフェの後は前情報で行きたいと思っていた「モミの木」から取れるエッセンシャルオイルを使ったグッズを製造しているという「フプの森」さんを見学。
製造しているオイルの質もさることながら、特に僕が惹かれたのはそのパッケージ。雪国らしさを残しつつもシンプルで、少しの無骨さを感じさせるデザイン。僕も色々な「モノ」を見てきていますが、中身にこだわっている小さなメーカーほどこういった「外側」のデザインが大事だと感じます。
中身を大切に思うなら、同じくらいそれを伝える努力も必要。そういう意味ではこの「フプの森」さんの製品は見た目も中身も素晴らしいモノだと感じたので、一つ気に入ったアイテムを購入して北海道から持って帰ってきました。詳細はまた後日記事で。
まちおこしセンター「コモレビ」は仕事環境として最適
昼食を終えた後は下川町の中心地にあるまちおこしセンター「コモレビ」で腰を据えて作業をすることに。
「コモレビ」は町民のために用意された交流施設。誰でも気軽に利用することができ、個人で作業をしたい方、セミナーなどイベントを開きたい方、勉強をしたい学生などが集まってそれぞれの目的に応じて使われています。
美しくシンプルな木材建築で建てられた「コモレビ」。東京のオフィスなんかよりもよっぽどモダンで洗練された空間が、ここ下川の真ん中に広がっています。
カフェのようなカウンタースペースでは外の景色を見ながら開放的な気分で作業を行うことができます。
会議用の部屋もあるので複数人で顔を合わせてMTGすることも。
木材で囲まれた気軽に使えるブースがあるので少人数ならここで仕事することもできますね。木の温もりに包まれながら穏やかな気持ちでキーボードを叩きます。
この日は東京のクライアント向けのデザインの仕事があったのですが、修正や進行は全てチャットと電話で済んだので北海道と東京でも何の問題もなく進めることができました。
直接顔を合わせて話すことのできない寂しさはありますが、それ以外の部分は正直どこにいても仕事のパフォーマンスは変わりませんね。今後通信とビデオチャットの技術が更に発展していけばもう対面で仕事の話をする必要はなくなってしまうかもと最近はひしひしと感じています。
一方でその分、対面で会える機会の希少性が上がり価値が高まる。会わなくてもいいのであれば「直接顔を合わせる」という行為は今後もっと濃密で大切なものになるでしょう。
たまに会うからこそ、一回一回を大事に扱うようになる。「直接会う」という行為は「本当に大事な用」の時のためのとっておきになるんじゃないか、とそんなことを考えながら一日仕事をしていました。
最終日は、薪割り体験。
一日「コモレビ」で仕事を終え、最終日は初日の懇親会で出会った薪屋の富永さんに下川の森の案内と薪割り体験をしてもらえることに。
「木を割って、届けて、人の暮らしを暖める。そのシンプルさが薪の好きなところなんですよ」
とキラキラした目で語っていた富永さん。数時間話しただけですが「あぁ、なんて真っ直ぐな人なんだ」と思わずため息を付いてしまうほど。元々出身は九州とのことですが森や自然に携わる仕事をしたくて下川に移住し、「薪屋」を起業することになったそうです。
それでは手始めに、と始まったのは「薪割り体験」。その名前の通り薪ストーブで使うための薪を割る作業を実際に体験してみるというものです。
斧の持ち方、薪を割る方向、狙う場所を教えてもらい上からストンと振り下ろします。
ここで意外な僕の才能が開花。
コツを得ることができたのかパカンパカンと気持ちよく薪を割ることが出来ました。一応剣道二段です。
スノーシューを履いて雪山の中へ
暖を取るための薪を割ったあと、「次は森のなかに入ります」ということでスノーシューを履いて下川町の雪山へ分け入ることに。
笑顔で颯爽と雪を踏みしめていく富永さん。
スノーシューに慣れないfukulow。
普段川が流れている場所でもこの時期は雪が重なり上を通れるようになります。「北海道の冬は夏よりも行動範囲が広がる」と昔アイヌを題材にした漫画で読んだことがありますが、まさかそれを自分で実感することになるとは。落ちないように慎重に進みます。
富永さんのガイドで木々の種類と特徴を教えてもらいながらサクサクと山を登っていきます。見た目には全部同じ木に見えても樹齢も伸びる早さも硬さも全然違うんですね。
色んな特徴を持った木々が寄り集まって一つの「森」を形成していく。全てが同じだと成り立たない。街や会社と同じですね。
ちなみに白樺の皮は薄くて油分が多いので、焚き木の着火剤として使えるそうです。いつか北海道の雪山で遭難した時のために覚えておきましょう。
気温は-20℃近い寒さでしたがギリギリα7 RⅡが動いてくれてよかったです。ここまで過酷な環境下での撮影は初めてだったでしょう。お疲れ様。
目の前に広がる大雪原。
雪山を上り終えると目の前に広がっていたのは見渡す限りの大雪原。
一つの遮蔽物もなく隣の山まで真っ白な大地がとめどなく広がっていました。
一目散に駆ける僕。
パウダースノーとはこのことだと言わんばかりのふわっふわの雪。雪山を歩いて火照った体を冷やすのにちょうどよかったです。
焚き木を囲んで。
雪山から戻った後は乾燥させた薪を使って焚き火。暖かい火の灯りってどうしてこうも癒やされるのでしょうか。
疲れもあるのか、それぞれ無心になって焚き木の火を見つめます。話さなくてもそれぞれが通じ合っているような、不思議な時間。
焚き木の熱を使って富永さんが淹れてくれたコーヒーが本当に美味しくて美味しくて。木が何十年もの間溜め込んだ、陽の光と水と二酸化炭素のエネルギーを今こうして「熱」として受け取り暖かい飲み物を飲んでいる。
そのエネルギーをまた持続させるために、森を守り続けなきゃいけないんだと語る富永さんの言葉に深く考えさせられました。
ちょっとでも富永さんに今回のお礼がしたいということでオリジナルの「薪エプロン」を購入。生地も良くキャンプなんかで使えそうなのでまた暖かくなったら記事にしたいと思います。
記念に一枚。とても一昨日の晩に会ったばかりとは思えないくらい、彼のことが好きになってしまいました。
薪屋とみながさんのInstagramとFacebookページを載せておきますので興味を持っていただけた方は是非ご覧ください。
木と温もりが巡る町、下川町
観光もしながらですが、3日ほど下川町で今回dripとして仕事をしてみました。PC作業中心の僕らなので「いつでもどこでも」働ける身ではあるのですが、それでも北海道にいるにも関わらず、別段東京で作業しているときと何も変わらず仕事ができたのには拍子抜けしてしまいました。
むしろ都会のような喧騒も雑音のようなノイズがないのでクリエイティブな仕事には集中しやすい環境だとすら感じます。
そしてもう一つ働きやすいなと思ったのは、土地の人の温かさ。
これまで触れてきたように今回出会ったどの人も親切で優しく、新しいものへ挑戦する熱量を持っている。内にエネルギーを蓄え、人を温めてくれるその様はまるで焚き木のようです。彼らがいるのなら、新しいことに挑戦してみようと起業家がこの北の土地に集まるのにも納得がいきますね。
こういった人の温かさが、また新しい人に受け継がれ循環していく。下川町の本当に良いところなのだと思います。
木と人の温もりが巡る町、下川町。
移住を考えている方、起業を考えている方、季節に合わせたリモートオフィスを検討している企業は是非一度下川に訪れて、その”温もり”に触れて心と身体を温めてみてはいかがでしょうか。