「変化」を受け継ぐということ。 ”mediacruise 佐賀 有田編”[PR]
情報とモノが溢れる今の世の中。
テレビや新聞が主な情報源だった時代と異なり、SNSや検索、ニュースアプリと情報を集めるための様々なツールが普及し、誰でも好きな情報を自由に手に入れることができるようになりました。
選択肢が増える、ということはそれだけ可能性が広がるということ。マスメディアという囲い込まれた生け簀の中から、膨大な情報の海原へと人が航海を始める時代と変化を遂げました。
そしてきっと次にやってくるのは「モノ」の大航海時代。
モノを作るため、そして売るためのインフラやサービスが整い誰もが「メーカー」であり「小売店」になる時代がもうすぐそこまでやってきています。
僕は「作り手」と「売り手」と「買い手」の境界線が曖昧になっていく中、数多あるモノの中から本当に良いモノを探し出し必要としている人達に知ってもらう機会を作るのが「伝え手」としての僕の役割なのではないかと思います。
佐賀 有田でモノを巡る旅。
前回の”mediacruise 佐賀 嬉野編”に続き、今回訪れたのは古来より続くモノづくりの地、有田。色々なお店を周りながら「良いモノ」を見つけお土産として持ち帰ってくるという一日を過ごしました。
有田焼、始まりの地。
旅の幕開けは「有田焼の始まりの地」と呼ばれる泉山磁石場へ。
有田焼の原料となる陶石が採れる地で、1610年代に朝鮮より渡来した陶工「李参平」がこの場所の陶石を使い焼き物を作ったのが有田焼の始まり。今ではもうこの場所の質の良い陶石はほとんど取り尽くしてしまい採掘は行われていないそうですが、昔の陶工達が掘った山々の形を見ながら昔に思いを馳せることができます。
採石場に向かう途中に祀られている、磁器でできた初代李参平の像。今でも「李参平」の名は代々陶工の継名として後継者の方に受け継がれているそうです。
歩道にはキラキラとした有田焼の破片が散るように埋め込まれています。
今回は特別に泉山磁石場の採掘現場の近くまで足を踏み入れることを許可していただくことができました。茶色い陶石をギュッギュッと踏みしめながら長い道を歩いて下ります。
周りの山々を見ると人が上から岩山を回るように削り取って行った後が。一つの地形を変えてしまうほど陶石が採掘され、日本中、世界中へ渡って行ったと考えると壮大なモノづくりのロマンを感じます。
大きな採石場の横穴の入り口に到着。こんな高さまでどうやって昔の陶工さんは掘り上げて行ったのだろうか。
洞窟の内部には陶工が手で掘り進めていったのであろうことが分かる無数の細かい引っかき跡が。ここから採掘された陶石がきっかけとなり始まった有田焼の歴史。僕達のモノ探しの旅の幕開けにはピッタリの場所でした。
センス極まるセレクト雑貨屋「bowl」
まず初めに訪れたお店は最近オープンしたばかりというセレクト雑貨屋「bowl」さん。このお店がもう初っ端から僕の好みのど真ん中を突いてきて、朝方からテンションのメーターを振り切ってしまいました。
古民家を改装した店内には店主が世界中から集めてきたモノ達がいくつかのセクションに分かれ、各々の世界観を作り出しています。
表現するテーマは「有田焼の価値観」。実際の家の中にあるモノの分量と同じように服や調理器具のような日用品が並べられています。
渋く寡黙で、それでいて上品な色味と質感で集められたカトラリーのスペース。僕がモノマリスト本の中で紹介したsyuroの銅の角缶が置いてあり、店主さんのセンスに近いものを感じ一人で嬉しく思っていました。
どこを向いても気になる商品がずらり。
カラフルなアロマキャンドルが置いてあるかと思えば、
向かいの棚にはわさびオイルが。実に自由な棚のレイアウト。
窓際にぽつんと置かれた彩度の低いドライフラワーの花束。
「有田焼きの価値観」を表現する、というテーマを掲げていますが実際のところは店内に置いてあるモノの内、有田焼の比率は約1割り程度。
有田焼は単に”高級”じゃなくて”贅沢”なものというのが店主さんの考え方。
「”高級”はお金で変えるけれど”贅沢”はお金じゃ買えないからね。そういうお金じゃ変えない体験を集めたいんだよ。」と笑顔で語られていました。
自然由来のモノが多いのかと思いきや、マーシャルのポータブルスピーカーが白い陶器と合わせてセレクトされていたりするから油断できません。全く違うジャンルのモノですが、色味が統一されていることにより繋がりとまとまりが生まれる。
しかもただの白じゃなくて同じような「クリームがかった白」というところまで合わせて来ているのが只者ではない風格を感じさせますね。
僕が一番衝撃を受けたのはこの棚の配置。オレンジの透明の容器を「これなんですか?」と質問すると、「それは登山用の携帯ゴミ箱です」と答える店主の方。
「登山に専用のゴミ箱を持っていくような人ならば、きっと周りにも気が遣え自分の持ち物にも意識が回る人に違いない。それなら、きっと物へのこだわりも強いはず、と思って有田の上質な茶筒を隣に置いてみたんです。」
モノの使用シーンや色味、素材感などありきたりな発想ではなく、その先の「買う人」をきちんと見据えているからこそできるこの配置。だって簡単に言えば「高級な茶筒」と「ゴミ箱」ですからね。
これをきちんと選んで配置できているセンスに思わず舌を巻きました。
ちなみにこちらの「bowl」さんではいくつか個人的にお土産を買って帰ってきてしまいました。その内の一つは既に記事を書いているので良かったら合わせてご覧ください。
有田焼の未来を求める「ヤマト陶磁器」
続いてお話をお聞かせいただいたのが、有田で陶器の企画販売を行う「ヤマト陶磁器株式会社」の山口さん。
「ヤマト陶磁器」では問屋として有田焼の窯元さんと連携し、新たな商品開発や企画を日々行われています。
「それこそ世界中の、新しい情報を収集し、フィードバックすることが問屋の仕事。」と語る山口さん。窯元さんが思いつかないような外の世界のアイデアを仕入れ、時代に取り残されないような取り組みを続けています。
hibi
そうして生まれた今の時代にも求められる「有田焼」のカタチがヤマト陶磁器さんのラインナップとして揃えられていました。
代表作の一つであるのがこの「hibi(ひび)」というシリーズ。
和柄で光沢のある、つるっとした質感の有田焼とは打って変わった、土らしい独特のくすみと味のある陶磁器。絵柄も北欧柄のような洋風な雰囲気を取り入れつつ色味を押さえ、マットで落ち着いた空気を演出しています。
新しいのに、懐かしい不思議な空気感を持った有田焼。
なみだつぼ
ころんと、手のひらに乗っけて包み込めてしまうような可愛らしい小さな有田焼の壺。
こちらは「なみだつぼ」という名前の製品です。
一輪挿しのお花を挿してデスクや小窓に彩りを加えるための小さな小瓶。
それぞれのカタチは代表的な有田焼のモデルをモチーフにしており、「ひょうたん型は子沢山を祈願する」といったような個別の意味付けがされているそうです。
釉薬を塗る前の素焼きの「なみだつぼ」も。
こちらはよりミニマルでモノとしてのカタチが分かりやすいので個人的にはとても好みのツボに入りました。壺だけに。
これ本気で自室のデスクに取り入れたいなぁ。
ARITA JIKI
もう一つ僕が惹かれたのが、「ARITA JIKI」のスタッキングマグカップシリーズ。
有田焼らしからぬマットな質感、目に優しくも鮮やかな色味。さらには重ねて収納できるという痒いところに手の届く機能性。さらさらとした手触りも魅力でこちらも個人用に一つ連れて帰ってきてしまいました。
「有田焼」というと華美で高価な器のイメージがありますが、ヤマト陶磁器さんはそのブランドの上にあぐらをかかず常に挑戦し新しいモノづくりをされているメーカーだということを製品を通じて感じ取ることができました。実際このあたりの製品は東京の銀座や表参道のセレクトショップで見かけることも多くあります。
お話を聞くと、元々有田焼は業務用で使われることが多く、職人のこだわりに常に応えながら成長してきた過程があるのだとか。なので有田の人達は一般的な職人のイメージと異なり好奇心が旺盛で柔軟な思考を持った人が多いそうです。
今まで作ってきた変わったものの例としては、「レクサスのシフトノブ」「陶磁器のお箸」「文房具のホチキス」「ゴルフパター」「腕時計」等など。
常に変化をすることによって時代の潮流に合わせてカタチを変え、繋いでいく。世間一般的に、伝統を守るためには「変わらないこと」が必要なのでは、と勝手に思い込んでいましたが、そうではなく「変わっていくこと」こそ本質的に「伝統を継ぐ」ということなのかもしれません。
有田が世界と出会う場所「2016/」
この日訪れたお店の中で最後にお邪魔させていただいたのが、「2016/」という有田焼の新ブランド。事前に有田に行くことを告知していたらLINE@の読者の方から「ここは本当に良いですよ!」とオススメがあったので行ってみることにしたのですが、この情報を知れて本当に、良かった。
お店はモール型の店舗集合施設の一角にあり、先程のヤマト陶磁器のちょうど向かい側。
「2016/」というのはその名前の通り2016年に誕生した有田焼のブランド。海外のデザイナーと有田焼の職人さんがコラボし、今までの有田焼になかった発想を取り入れ誰も見たこともない製品を作り出そうという試みです。
「2016/」は複数の商社さんが集まり成り立っているブランド。参加した海外のデザイナー達は、実際に有田の歴史や技術を目にする中で新しいアイデア生み出し、職人はその新しく誰も今まで見たことがないようなアイデアに懸命に応えていく。参加した全てのメンバーが挑戦を繰り返しながら成り立つブランドです。
海外の発想を日本の職人が実現する、というのは目新しいように感じますが、元々有田は長崎が違いこともあり海外との貿易が盛んで、同様に海外のオーダーに対し日本の技術で答えるという流れは元々あったんですね。それを現代にもう一度コンセプトとして体現し直したのが「2016/」。
深く青く、艶のあるマグカップやミルク入れ。有田焼というとお茶が合わせてイメージとして出てきますが、海外の発想だとそれがコーヒーに変わるんですね。
陶磁器で作られた文房具類。焼き物らしからぬ幾何学的な形状が特徴です。
通常は取り除く土の中の鉄分を敢えて残し柄として利用するアイデア。
これは少し前にもSNSでバズっていた製品なのですが、遠くから見ると円柱状に見えるよう職人による特殊な吹付が行われている有田焼。上部は平面に見えますが実はすり鉢状に凹んでいて中にものを入れることができるようになっています。
無数の小さな穴が空いたメッシュ状のコーヒードリッパー。これを焼き物として作ってしまうのだから恐れ入ります。せっかくなので僕らもここで一杯いただいて帰ってきました。
海外のデザイナーから生まれる自由なアイデア、それ故に実現が難しい。
その難題に答えるために、窯元さん達が自分たちの技術だけでなく、別の技術を持っている他の窯元さんにも頼るようになり、今少しずつ窯元さん達の間に横の繋がりが生まれてきているのだとか。
今まで一つの窯元の中でのみ受け継がれていた情報が、複数の窯元の間で共有され産地全体として今技術力が上がっていることをひしひしと感じると地元の方が仰っていました。出会う場と共通の目標があれば人は繋がり協力していくものなのですね。
産地有田として取り組んでいる「2016/」。今後も引き続きチェックしていきたいと思います。
#mediacruise、dripのお土産決定しました!
今回の企画#mediacruiseではそれぞれが現地の取材をし、お土産を選んで持ち帰ってくるというミッションがあります。
僕も有田の様々なお店を巡り、その中から「これだ!」と思うモノだけを厳選してピックアップしてきました。
#mediacruiseのdripコースを支援してくれた方にはこちらおみやげとしてお送りさせていただきますので、ほしいなと思ったら是非ご支援をば。
ARITA JIKIのマグカップ
セレクト一つ目は「ARITA JIKI」の浅いブルーのマグカップ。触れた時のマットな質感がとても良かったのとスタッキングできるという機能性に惹かれ迷わず決定。
なみだつぼ
二つ目はヤマト陶磁器の一輪挿し「なみだつぼ」。フラスコのような可愛い形状と細やかな渦巻き模様がポイント。窓辺に、デスクに置いてみたい。
2016/の小物入れ
3つ目のセレクトは2016/で選んで青と白の小物入れ。他の2つの陶磁器と色味を合わせ、深いブルーと潔い白を選択。
「凛とした暮らしをつくるデスクセット」
上記の3つを組み合わせて、僕らがおみやげとしてご用意したのがこちら。名付けて「凛とした暮らしをつくるデスクセット」です。
青という一つの色をテーマに、異なる質感、柄の有田焼を揃えバランス良く調和するようセレクトをしてみました。それぞれが良いモノであることは間違いありませんが、こうしてテーマを持ってモノを揃えるとそこに一つの「世界」が生まれます。
読者のあなたもこのセットをデスクに置いて、凛とした一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。
「変化」を受け継ぐということ
今回のお土産のアイデアは一番初めの雑貨屋さん「bowl」の棚組みからインスピレーションを受け実践してみたもの。一つの旅の中で僕達の感性にも「変化」があったという現れです。現地に赴き、直接触れてみて初めて分かるものがある。
今回の旅は本当に僕自身大きな学びがある旅となりました。
そして、一日有田の職人さんやお店の方とお話し感じたのは、どの方も同様に「変わる」ということに強い意識を持っているということ。
「セレクトで有田に新しい文化を作りたいんです。」
「陶磁器をもっと日常に溶け込ませたい。」
「世界に向けた有田焼のまだ見ぬカタチを探してるんだよ。」
長く続く伝統があるその中で、変化を求め常に新しい在り方を探している。こういう考え方があるからこそ「有田焼」は今も続き現代でも輝いている。常に今が最先端、この「変化を受け継ぐ」という文化が何よりも大切なことなのではないでしょうか。
僕も常に変化し、新しい場所で新しいことができるように。モノづくりを通じ、生き方を学べた一日でした。