川崎に聳える異世界、電脳九龍城。
「写真」を上手く撮れるようになるには、どうしたらいいのでしょうか。
上達への道は複数あると思いますが、きっとどの道を通ることになっても必要なのは「シャッターを切る回数」。
素振り一振りでプロ野球選手になれた人間がいないように、カメラの世界もまた、地道な繰り返しが一番の近道だと思うのです。
なので日常の生活の中に極力カメラを持ち歩くようにはしているのですが、撮りたいものやシーンに出会える機会というのは決して多くはありません。
青い海や、緑の木々、カラフルな町並み。
Instagramのタイムラインに流れる有名なフォトグラファーの個性的な作品を見ていると「そろそろ海外にでも行きたいな」なんて思ったりもしていたのですが、先日その考えを改める機会がありました。
それはこちらのHiroaki Fukudaさん(@hirozzzz)という写真家の作品をinstagramで見かけた際。
パッと見の印象と外人のモデルさんを見て、てっきりまた「おしゃれな海外で撮ってるな」と思ったのですが、地名を見ると「Shimokitazawa」の文字。
なんてことはない、下北沢の踏切前で撮っただけの写真だったんですよこれ。背景は京王井の頭線。
近くでこんな写真が撮れるのならば、まずはそれを撮れるようにならなければいけないのではないか。
日常の風景を、非日常に見せる、こんな写真を一度僕も撮ってみたいと強く思いました。
普段自分が「当たり前」として捉えている風景でも、他の人から見たらそうじゃない、という事例は多くあると思います。
東京のビル群、秋葉原の電気街、京都の町並み。
改めて客観的に見れば、日本という国はそこかしこに写真映えする場所や建物ばかり。
海外にも全く引けを取らない、フォトジェニックが詰まった国だったんですよね。
川崎に聳える、電脳九龍城を目指して
「きっとまだ自分が知らない、写真に映える場所が割と近くにあるんじゃないか。」
そう思い海外のインスタグラマーのアカウントを漁ってみると、あっけなく見つかりました。
それが川崎に聳える「電脳九龍城」と呼ばれる施設。
自宅から30分足らずという距離だったので、休日を利用してふらりと足を伸ばしてみることに。今日はそのレポートをお届けいたします。
川崎駅から5分くらい歩き、栄えた街から住宅街に景色が変わってきた頃、忽然と現れる茶色く古びた建物。
あなたのウェアハウス
先程の「電脳九龍城」というのはこの建物の別名で、本来の名前は「あなたのウェアハウス」。
1Fから4Fまでがゲームセンターになったアミューズメント施設です。
この寂れた外壁に日本語の文字が大きく乗っているアンバランスさがディストピア感を増していますね。
入り口はこのようになっていて、注意書きには「18歳未満立入禁止」の文字が。
予めこの施設のことを知っていないと入る勇気出ないですねこれ。
ようこそ、電脳九龍城の世界へ
門を通ると大きな「電脳九龍城」の文字と、赤い扉が。
この向こうにまだ見ぬ異世界が広がっています。
中は薄暗く、というよりも真っ暗に近い状態。
感度の高いカメラで撮影してもこれくらいなので実際はもっと暗く感じると思います。ほぼお化け屋敷。
この建物のテーマにもなっている「九龍城」というのは、30年前まで香港にあったスラム街。
半径数キロの中に12階建てのビルが立ち並び、各階は自作の梯子や通路で繋がれ、その中には3万3000人もの人が住んでいたという場所。
国の統治を受け付けずニューヨークの119倍の人口密度の中で、暴力と犯罪が自治として機能していたそうです。
「攻殻機動隊」や「イノセンス」、「GetBackers-奪還屋-」など様々な映像作品にもオマージュとして登場しています。
30年前に取り壊され今は現存しないということですが、その世界観を現代に受け継ぎ表現したのがこの川崎の「電脳九龍城」。
赤と橙の伝統に照らされながら、エスカレーターを登って2Fへ。
2Fは九龍城の中の市場を模した空間の中に、レトロなゲーム機が並ぶ、というこれまた異空間が広がっています。
まさに“電脳”九龍城たる所以ですね。川崎の住宅街の中にこんな世界があるとは。
増築と改築を繰り返し、家々が重なり繋がり合っていたという九龍城の逸話をそのまま再現した空間。
今もそこに人が住んでいるのではないかと思うほどの生々しさがに背筋が冷たくなりました。
海外の写真家が訪れる写真スポット
九龍城の内装も迫力があるのですが、今回ここに訪れた最大の目的はこの陰陽太極図の扉の向こうにあります。
扉を開くと、緑に光る湖の上に浮かぶ魔法陣のような大きな通路が。
一体何が召喚されるというのでしょうか。
この場所が世界的にも有名らしく、この日も海外から複数のカメラマンがやってきていて代わる代わるモデルを立たせては真剣な目でファイダーを覗いていました。
こんな近くに世界で広く知れた場所があったなんて。灯台下暗しとは正にこの事ですね。
せっかくなので僕も数枚写ってみました。
立っただけで、血脈に刻み込まれた龍が目覚めそうですね。
昨日はオフだったので川崎で魔力高めてきました pic.twitter.com/jCMelp8m5e
— 堀口英剛 #モノマリスト本発売中! (@infoNumber333) 2018年8月20日
他の階は普通のゲームセンター
唯一無二の世界観を持つ“電脳九龍城”こと「あなたのウェアハウス」ですが1F、2Fのフロアの一部以外は普通のゲームセンターになっています。
太鼓の達人でバチを振るガラの悪そうな大学生、コインを積み上げて画面の中のガンダムを操る大人しそうな男性、ケースの向こうのぐでたまのぬいぐるみを彼氏にせがむ女の子。
入り口は相当に特殊なものの、訪れる人はほぼ9割がた地元の人でした。
この人達にとってはただの「近所のゲームセンター」なのかもしれませんが、この景色を撮るためにわざわざ飛行機に乗り国境を越えて足を運んでいる人もいる。
遠い場所に憧れを持つだけではなくて、まずは身の回りに目を凝らしてみることから始めるべきですね。
公式サイト:あなたのウェアハウス
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