伝説のマーケター神田昌典氏と考察する、新型発表会に込められたAppleの未来予想図。

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「iPhone8の次は、9じゃないの?」

13日に行われたのAppleの新製品発表会を受け、そう思った人も少なくないのではないでしょうか。

2018年に発売されたiPhoneは「XS」「XS Max」「XR」の3台。
ナンバリングのiPhoneの流れは今年で完全に絶たれました。極端に言えば「今までのiPhone」は死に「新しいiPhone」へとバトンが受け渡されたのです。

この名前の変更が果たして何を意味するのか。今、Appleが考えていることは何なのか、この先どんな未来を描いているのか。この謎について深く考える内に、僕はある一冊の本に辿り着きました。

それが「2022―これから10年、活躍できる人の条件」。

「GQ JAPAN」で“日本のトップマーケター”に選出され、2012年のアマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位を獲得した著名なマーケター「神田昌典(かんだまさのり)」さんが2012年に発売された本なのですが、この中に「iPhoneの未来を予測する」という章があり、その中に以下の一文が出てきます。

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“iPhoneは2016年末で、製造中止。その後は、新ネーミングもしくは、まったく新しいコンセプトのマシンに進化。”

(中略)

“iPhone X”というようなネーミングを付けた、多機能・高性能機種を出し続けるだけで終わるかもしれない”

この一文を読んだ時、背筋にぞっと悪寒が走りました。

だってこの文章が世に出されたのは、2012年なのだから。

Appleは2016年10月にiPhone7を発表し、昨年には8と同時に「iPhone X」という新しいラインの製品を投入。今年にはナンバリングの製造が中止となり「XS・XR」というXのラインのみが残され、完全に新しいプロダクトラインに移り変わりました。

著者の神田さんはこのiPhoneの変遷を6年前の時点で既に予言していたのです。
12年時点でローマ字の「iPhone X」という名称までズバリ言い当てていたのには本当に驚きました。

夢中になって読み進めていくと、書籍の中にそれ以外にもiPhoneの行く末を的確に、鮮明に言い当てている言葉が出るわ出るわ。マーケターというよりもこの方預言者なんじゃないの?というくらいの的中っぷり。それでいて、その言葉の一つ一つが整然とした理論に裏付けされているので、怪しい感じが全くしないのがまた素晴らしい。

本を書いてから6年後、今のiPhoneの状態を見て、この方は一体どう感じているのだろうか。彼の思った通りに流れが進んでいるのか、はたまた彼すらも予想し得ない未来に向かっているのか。

そう思った時にはもう、僕の指は動いていました。

神田昌典さんに会って直接聞いてみた

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気になったのであればもう聞いてしまうのが一番早いよね、ということでやってきました表参道。

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神田さんに「ぜひインタビューをお願いしたいことがあります」と文章をしたためたところ、快くOKをいただき神田さんのオフィスまでお伺いさせていただけることに!なんと心の広い…。

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こんなお洒落なオフィスの一室で、神田昌典氏本人に直接今年のApple発表会の所感をインタビューさせていただきました。

iPhoneという「プロダクト」の寿命

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神田昌典(かんだまさのり)

経営コンサルタント・作家
日本最大級の読書会『リードフォーアクション』発起人

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。

1998年に作家デビュー。分かりやすい切り口、語りかける文体で、従来のビジネス書の読者層を拡大し、実用書ブームを切り開いたため、出版界では「ビフォー神田昌典」「アフター神田昌典」と言われることも。

『GQ JAPAN』(2007年11月号)では、“日本のトップマーケター”に選出。
2012年、アマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位。
アルマ・クリエイション株式会社の代表取締役

詳しいプロフィールはこちら

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インタビュアー:堀口英剛(ほりぐちひでたか)

メンズライフスタイルメディア「monogarph」編集長
株式会社ドリップ代表取締役CEO

早稲田大学商学部卒業後、ヤフー株式会社に入社。
大手広告代理店の担当営業を務め、2017年に独立し会社設立。

ポプラ社より「思考と暮らしをシンプルに 人生を変えるモノ選びのルール」発売中。ファミチキが好き。

堀口:以前神田さんが著書の中で「iPhoneはプロダクトライフサイクル理論で考えると、iPhone7で失速しiPhone8で終わりを迎える」と語られているのを拝見しました。

実際その内容に近い状態になっていると僕は感じているのですが、なぜこのような予想が立てられたのでしょうか。

神田:それにはまず「プロダクトライフサイクル理論」の前提からお話させて下さい。

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プロダクトにはこのように「Sカーブ」と呼ばれる「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退」の4つのフェーズが訪れます。

導入期は仕込みの時期、成長期はそれが花開き大きく伸びる時期、成熟期には製品やサービスが行き渡り安定が訪れ、やがて衰退が訪れます。

どのような製品・サービスであろうともこの流れの上に乗り、生まれ、消えていくのです。

堀口:実際のiPhoneの変遷とこのプロダクトライフサイクル理論を照らし合わせてみると、確かにその流れが見て取れますね。

機種 新機能 販売台数 周期
2007年 iPhone タッチスクリーン 約370万台 導入期
2008年 iPhone 3G 3G回線で日本発売 約940万台 導入期
2009年 iPhone 3GS CPU速度改善 約2300万台 導入期
2010年 iPhone 4 Retina ジャイロセンサー 約4700万台 成長期
2011年 iPhone 4s Siri 約9300万台 成長期
2012年 iPhone 5 LTE通信 約1億台 成長期
2013年 iPhone 5s Touch ID 約1億1700万台 成熟期
2014年 iPhone 6 2サイズ/NFC搭載 約1億3700万台 成熟期
2015年 iPhone 6s 3D touch 不明 成熟期
2016年 iPhone 7 イヤホンジャック廃止/防水 不明 衰退
2017年 iPhone 8 ワイヤレス充電 カメラ強化 不明 衰退
2017年 iPhone X 全画面/FaceID 不明 衰退or導入期(?)
2018年 iPhone XS 機能アップ/デュアルSIM 不明 衰退or導入期(?)

iPhone~iPhone 3GSまではニッチなコアユーザーに浸透、iPhone 4以降から革新的な機能を搭載し始め、爆発的に販売台数が伸びiPhone 6でピークを向かえています。

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photo:via ITmedia Mobile

iPhone 6s以降は機種ごとの正確な販売台数がわからないのですが、あまり目覚ましい変化もなく、売上の初速を見ても徐々に需要が停滞してきていることが見て取れます。

2018年度第1四半期決算では、前年同期のiPhone合計販売台数である7829万台を下回り微減。「iPhone X」というプレミアムなモデルを出し単価を上げることにより売上高は大きく伸びているものの販売台数は横ばいという状況ですね。

神田:自分自身でも、今本を読み返して「iPhone X」という言葉が出てきていたのには驚きました(笑)

成熟期・衰退期の製品の価格を上げる、というのは良い選択だと私は思っていて、それは同時にiPhoneという製品が衰退に入っていることの裏付けであり、ティム・クックが「別の新しい何か」にシフトを始めているという示唆でもあるんじゃないかと。

彼の中ではもう、「これまでのiPhone」は終わっているのかもしれません。そして「次のS字カーブ」を託したのが「iPhone X」もしくは「Apple Wacth」なんじゃないかと思っています。

そのどちらかにこれから芽吹くかも知れない彼の「新しいイノベーションの種」が埋まっていれば、Appleという企業はさらに大きく成長するはずです。

ジョブズからクックへ。

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堀口:「新しいイノベーションの種」というのはどういうことでしょうか。

神田:先程の「プロダクトライフサイクル理論」には実は続きがあって、製品やサービスだけでなく「人」にも応用ができるんです。

それが春夏秋冬理論というもので、プロダクト同様人の人生も一定の周期を持って成長と停滞を繰り返しているという理論です。

先程のS字カーブで説明した「導入期」「成長期・前半」「成長期・後半」「成熟期」を「冬」「春」「夏」「秋」と言い換え12年周期で一周するという考え方ですね。

あんまり熱く話してしまうと「胡散くさいな(笑)」と思われてしまうので、あまり人前で言うことは少ないのですが、私は何万人もの経営者の人生を観察することでこの理論を見出しました。

有名な話だと「モーツァルトが35歳で死んだのは早死にだったのか」という論議があります。

モーツァルトは晩年、作曲の飽和率が9割を越えていたそうです。そしてこの時期はちょうど成熟期の後半にあたり、衰退期を向かえ亡くなってしまった、と「Sカーブ」の研究者、セオドア・モディス氏は先程の周期の理論を用いて説明しています。

同時に、その成熟期の間で新しい成長カーブを描く”別の何か”を見つけられていれば、モーツァルトはもう少し長生きができたのではないかと語っているのです。

これはAppleにおいても同じようなことが言えます。

2011年、iPhone 4sが発売された年、創業者のスティーブ・ジョブズが亡くなりました。この年は彼の周期から考えると「秋(成熟)」の収穫をちょうど終えたときなので、今世での役割を見事に果たしきったともいえるのです。

このタイミングで自らの引き際を悟り、それまでのそれまでの「春(成長期・前半)」「夏(成長期・後半)」で育てたAppleという会社とiPhoneというプロダクトをティム・クックという後継者に預けたのです。

その当時のクックの周期は「夏(成長期・後半)」だったので流れに乗り、iPhoneを過去最高の売上台数まで販売することができました。

そして彼の「冬(導入期)」がやってきたのが、2017年。その年に出したのが「iPhone X」という新しいiPhoneです。

堀口:つまり、昨年の「iPhone 8」までのiPhoneがジョブズの遺産で、「iPhone X」からがクックの新しい挑戦、ということでしょうか。

神田:そうですね。なので「iPhone X」からまた新しいプロダクトサイクルが生まれるのか、このまま衰退してしまうかはここ数年のクックの手腕と考え方によるでしょうね。

堀口:確かに去年は「なぜ8とXの2つのラインが出たのだろう」と不思議に思いましたがそう言われると納得感がありますね。ジョブズからクックへの引き継ぎの年だったのか…。

神田:二人のライフサイクルから考えるとバトンタッチのタイミングとしては良い組み合わせだったのではないかと思いますね。

ティム・クックというもう一人の”天才”

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神田:昨年から単なるジョブズの代理ではなく、クックが主となる経営が始まったと思っています。

今回のAppleの発表会を見て、クックはまたジョブズとは違った意味で天才だなと思いました。

あのオープニング映像、見ました?(笑)

とにかくダサい、超ダサいんですよ(笑)

ミッションインポッシブルのテーマという誰でも知っている大衆的なBGMを使い、コミカルに仕立てて会場の笑いと共に登場する。あれはジョブズだったら絶対にやっていないことです。

今は憧れよりも、親近感が大切ということを理解しているんでしょうね。エッジを立てず、大衆と離れすぎない。

それを分かって、あえてダサくの演出をしているのがすごいです。自分の魅せ方が分かっている。

あの内容だと今までのAppleを知っている社内の人間だってきっと反対したでしょうが、それを通せるビジョンの高さを持っている人間だなと思いました。非常に策士というか、コミュニケーションの仕方が天才的。

あのジョブズが後を任せたのも理由がわかります。後継者を選ぶ目は確かだったんじゃないでしょうか。

その策士っぷりはオープニングだけでなく、実は発表会中にも現れています。

隠れた策は、Apple Watchに

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堀口:え、どんなところにですか…?

神田:今回の発表会において、私はメインの製品は「iPhone XS」ではなく「Apple Watch」だったのではないかと思っています。

「Apple Watch」の中に本来世界から注目をされるべき機能が入っていたのに、あえてそれを目立たなく、ダサく演出している。

表に出さないように、深く考えていないように。それがクックの策だと思っています。

堀口:たしかに「Apple Watch」に関してはそんなにインパクトを感じませんでしたね。プレゼンの仕方も地味だったというか…。

神田:地味ですが大事な機能が一つ、隠されていたんです。

それは「心電図(ECG)」

日本ではまだ使えない機能ですが、実はこのECGがすごい技術なんです。単なる心拍数を測るだけではなく、もっと立体的に心臓の状態を把握できる技術。おそらく心筋虚血診断検査を行うMCG技術が使われています。

例えるなら、熟達したエンジニアがエンジンの音を聞いただけで「あそこのネジが緩んでるな」とわかるようなものですね。

心筋梗塞が日本でも2番目に多い死因なんですが、今までの診断方法はカテーテルを刺すくらいしか方法がなく、それでもそこまで精度が高いものではありませんでした。MCGはその蓄積された統計データに寄って精度を上げ、従来の検査方法と変わらないほどの信頼性を担保した技術なんですね。

これが発表された時、「あーついにきたなー」と(笑)

堀口:そんなにすごい技術とは知りませんでした…。

神田:IT業界の人にとってはあまり馴染みのない技術なので仕方ないかも知れませんが、それを「あえてすごい技術に見せなかった」というのがクックの策です。

堀口:せっかくならアピールすればいいのに何故そう見せなかったんでしょうか?

神田:それは世界中に散らばるライバル企業たちに後を追われないためです。

難しい技術ではありますが、技術自体は他の会社でも持てるものなので、そこにビジネスチャンスがあると知られてしまうと今の段階だと追いつかれてしまう可能性がある。だからあえて「ダサく」「普通に」見せて伝えているのだと思います。

先日の発表を見て「iPhone XSは大したことないな」と思った中国や韓国の企業はクックの思う壺です。

スマホ市場はもう完全な飽和状態。その中で利益を削り薄いイノベーションを続けるのは完全なラットレースです。

まだスマホ市場で戦っていると見せかけて、するりするりと「医療」の分野に手を広げている。よくよく考えるとApple Watchが発売されたのもジョブズが亡くなってクックに実権が移った2015年からなんですよね。

高いビジョンを持ちそれを悟らせない、恐ろしい男です。

プロダクトと技術は次のフェーズへ

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神田:Apple WatchはiPhone同様に「ハードがプラットフォームとして機能する製品」です。

堀口:「ハードがプラットフォーム」…?(全然わかっていない)

神田:手首に巻かれたApple Watchは心拍数を始め生体データを蓄積する装置です。今は心臓中心ですが今後技術や制度が進歩すればその他のデータも取れるようになり、それがビックデータとして蓄積し、ガンや脳卒中などありとあらゆる病気を特定することができるようになります。

これは同じ著書の中で語った「ibrain(脳)」と同じような発想ですね。最近は大きなニュースメディアも買収しましたし、どんどんAppleのプロダクトは「脳」に近づいていますよ。

堀口:iPhone Xだけでなくもう一つの製品の予言も実は当たっていたんですね…!

神田:データの基盤となる重要な市場ということを理解しているからスマートウォッチのシェアだけはAppleは確実に取りに来ているんですよ。音楽プレイヤーやiPadなど他の製品は競合がいますが、Apple Watchには今目立ったライバルがいない。

Appleはわざと市場として価値があるように見せてこなかった。タブレットのシェアを取って安心しているような企業は何も見えていませんね。

堀口:今回のiPhone XSではチップに搭載されている「ニューラルエンジン」という機械学習用のコアの性能が飛躍的に向上しましたよね。あれも収集したデータを高速に捌いて集積させるためと考えると納得がいきますね。

神田:そうなんです。そこにクックの「意思」が宿っているのであればiPhoneもきっと未来があると思います。ビジョンは必ずプロダクトに現れるものですから。

同じように今はエンタメ向けに見せられている「AR」や「VR」も、もっと別の使い方を考えているのではないかと思っています。

例えば視力の補助とか、危険回避の警告とか。
エンタメは不確実性の高い事業なので、あそこまで本腰を入れている裏には何かあるはず。

同じ健康系の目線で、十中八九、次はカプセル型の内視鏡とか埋込み型のチップとか開発するんじゃないかと思ってます。

堀口:この記事を数年後に読んで、予言がまた当たっていたら面白いですね。

神田:国によって制度も倫理も違うのでどこまで医療の本丸にAppleが切り込めるのかは分かりませんが、クックが掲げる高いビジョンを今のようにプロダクトに「種」として埋め続ければいつか花開く時がくると思います。

堀口:もしかしたらもう、見えないところで新しいプロダクトライフサイクルが回り始めてるのかもしれませんね。

本日はお時間をいただきありがとうございました。

神田:ありがとうございました。

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どんなモノにもある、始まりと終わり。

iPhoneは実は単一の「モノ」としては世界で一番売れているプロダクトです。その数10年でなんと10億台。ちなみに2位が書籍「ハリー・ポッターシリーズ」で3位がSONYの「プレイステーション」だそうです。

それだけ売れているモノでもいつか終わりがやってくる。そして終わるタイミングでまた新しい種が芽吹く。
普段とは視野の異なる大きな「モノ」の話を聞かせてもらえる貴重な機会でした。

そしてAppleの発表会の裏に隠された、ティムの真意。
発表を受け落胆している人の姿を見て「クックック」と影で笑っているかもしれませんね。

ホーリーはこう思うよ。
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どこの馬の骨ともわからない若造に、こんなに丁寧にお話をしてくれて、なんなら人生相談までしてくれた神田さんが眩しすぎて直視できませんでした…!

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伝説のマーケター神田昌典氏と考察する、新型発表会に込められたAppleの未来予想図。

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