知っているけど、知らない世界。”mediacruise 佐賀 嬉野編”[PR]
2018/05/21
『旅の過程にこそ価値がある。』というのは、かの有名なイノベーター、スティーブ・ジョブズの言葉。
大切なのはどこへ行ったのか、何を見たのか、という「点」ではなくそこへ至る「線」の過程。SF小説家の森博嗣さんも残すべきは「知識」ではなく自分の中に蓄積する「経験」なのだと語ります。
便利なこの世の中ですから、「知識」はネット上にいくらでも、それこそ路傍の石よりも多く転がっています。だけれど「経験」は自分自身が体験しない限り決して手に入れることはできない。VRのような「疑似体験」がいくら発達したとしても「本当の体験」はきっと未来永劫、自分の足と目と肌でしか出会うことはできません。
なので今年は仕事でも遊びでも国内、海外問わず色々な場所に出かけています。「知識」としては”知っている”けれど、「経験」という意味では”知らない”世界がまだまだ広がっているから。
メディアクルーズ in 佐賀
メディアクルーズ in 佐賀、行ってきますー!#mediacruise pic.twitter.com/f50aiJAQES
— 堀口英剛 #モノマリスト本発売中! (@infoNumber333) 2018年4月16日
今回は最所 あさみ(@qzqrnl)さん主催の「地域とメディアを繋ぐ新しい取材のかたち」を実現する企画、「mediacruise(メディアクルーズ)」に呼んでもらい4月の半ばに佐賀へと旅に出かけました。
「mediacruise(メディアクルーズ)」というのは「この土地に取材に行きたい!」というプロジェクトに対して「読みたい!」という人が集まってスポンサードする企画。秘められた魅力を持つ予算の少ない小規模な自治体でも取材がしやすいようにと考えられた新しい試みです。
地域とメディアを繋ぐ新しい取材のかたちを実現したい!#mediacruise – CAMPFIRE(キャンプファイヤー)
旅のしおりが手書き。かわいい。#mediacruise pic.twitter.com/CURRIo6de8
— 堀口英剛 #モノマリスト本発売中! (@infoNumber333) 2018年4月16日
”メディア”の”クルーズ”ということで今回は複数のメディアが合同で同じ土地を取材するという新しさもあります。
今回一緒に同行したのは、cocorone、灯台もと暮らし、箱庭、さんちの4メディア。dripからは僕とDRESS CODE.が参加させていただきました。いつも見ていたメディアの中の人達と旅行ができるというのは嬉しいですね。
同じ場所をどのように周りどんな切り口で記事にするのか。メディアの個性がでる面白い企画。
嬉野、有田を巡る旅。
今回は室町時代から続く茶葉の名産地「嬉野(うれしの)」と世界に誇る伝統工芸”有田焼”で有名な「有田(ありた)」の2つの地域を取材で訪れました。
どちらも名前は聞いたことがある、という「知識」はある土地。そこで僕がどんな「経験」をしたのか是非記事を読みながら追体験してもらえればと思います。
嬉野:和多屋別荘が天国。
まずは嬉野のご紹介から始めましょう。
一日目に荷物を置きに一番初めに立ち寄ったのが、天皇皇后両陛下も泊まったという旅館「嬉野温泉 和多屋別荘」さん。
モダンな設計の木造建築で、廊下の視覚効果、ロビーに漂うお香の匂い、ささやかに添えられた花。全てに一貫したデザインの意思を感じます。
明るいテラス席には冷やされたお水が。素晴らしい配慮。
外せないのは大浴場とは別に離れに設けられた「心晶」という名の露天の入浴施設。「日本三大美肌の湯」と呼ばれる良質な温泉が流れる湯に浸かりながら大自然を感じられる場所です。
しかもなんと、専用のサウナと水風呂付き。この湯船に入るためだけでも嬉野に来る価値があると言える旅館でした。また来たい。
今日の旅館「和多屋別荘」さんが最高すぎる。和×モダンな内装に掛け流しの温泉、足湯、そしてサウナ。天皇皇后両陛下も泊まったことがあるという由緒正しき宿の、広い部屋の中で、黙々と今Macbookいじってます。最高。#mediacruise pic.twitter.com/10n6L94inb
— 堀口英剛 #モノマリスト本発売中! (@infoNumber333) 2018年4月16日
嬉野茶の茶農家さんを尋ねて。
一頻り和多屋別荘さんに興奮した後、まずは嬉野茶を生産している茶農家さんが実際にお茶づくりを見せてもらえることに。車に揺られ山間の道をとことこ進みます。
道の両脇には緑、緑、緑。一面の茶畑が並ぶ道。
ちょうど新茶の季節ということで、浅い色の爽やかな葉が木々の先から伸び、光を一身に浴びていました。この時期は成長が早く一日で味が変わってしまうため、茶農家さんは早朝から深夜まで忙しい生活を送っているそうです。
摘んだ茶葉はその日の内に製品として加工され世に出されます。
取材に伺った農家さんでは、半球状の熱せられた釜を使用する伝統的な「釜炒り」という製法で茶葉を加工しており、その様子も少しだけ横で見させてもらうことができました。
直接釜に触れることなく、茶葉のみを手で掬い空気を混ぜながら茶葉に熱を伝え水分を飛ばしていきます。
「やってみる?意外と難しいんだよ、これ。」と語る茶農家さん。
パラパラパラ、と散らせるだけではなく大きな塊の状態まとめることによって中心部に水蒸気を溜め”蒸し”の要素も入れることが重要なのだとか。
その「知識」を持っていても、実際に長い間積んだ「経験」がなければ出来ない職人の技。
茶葉を扱う慣れた手つきと軽快なリズムに時間を忘れて見入ってしまいました。
一定時間釜で炒った後、水分量を均一にするために茶葉をまとめ、揉み込んでいきます。
こうして作られる茶葉の量は、5時間半でわずか400グラム。
「機械が使えればもっと楽なんだけどね」と笑いながら語る茶農家さんの背中から、お茶の良い香りがふわりと鼻に抜けました。
嬉野にお茶作りが伝わったのは今から580年以上も昔。室町時代に移民してきた唐人がお茶の栽培を日本で栽培を始め、その伝統が今まで連綿と続き、こうして茶畑として見える形で受け継がれています。
580年前の明の移民達はこのお茶を飲みながら故郷の風景を思い出していたのでしょうか。
僕は日常の中で緑茶に馴染みがなかったので、これからお茶を飲んで思い出すのは、ここ嬉野の茶畑になりそうです。
風景でお茶を味わう「天茶台」
嬉野の茶畑を登ると小高い山の上に景色を一望できる「天茶台」という名前の小さな展望台があります。
嬉野に来たからには、お茶を飲まなければ始まらないということでこちらで水出しのお茶をいただきました。暖かい気候の日だったので喉を通るお茶の美味しいこと。
カランカランと軽い音を立てる氷と、あっさりとしたお茶の風味、開けた景色、吹き抜ける風。
味覚だけでなく全身で緑茶を楽しめる気持ちのよい場所でした。
静寂な時が流れる「杜の茶室」
「もう一つ、ご案内したい茶室があるんです」と車で連れられ、辿り着いた山の中。こんなところに茶室が…?と疑いながらも嬉野の方の案内に付いていき、森の中へ。
少しだけ歩き進むと、木々の中に一角だけ開けた光の差し込む場所が。こちらがもう一つの茶室「杜の茶室」です。
茶室、という言葉で表現するにはあまりにもミニマルなその設計。森の中の雰囲気とも相まって、まるで神殿のような厳かな佇まいを感じさせます。
こちらでは、一年に一度各々の茶農家さんが作る選りすぐりのお茶「品評会茶」をいただきました。口を当ててまず「これは本当にお茶なのか」と思うほどのガツンとした強い衝撃が舌から脳へ。
お茶というよりも出汁に近いような感覚で、「旨味」の成分がぎゅっと濃縮された液体。コーヒーで言うならばエスプレッソのような至極の一杯でした。
食べ物、飲み物というのは「何を口に入れるか」というのももちろん大切ですが、どうように「どこで」「だれと」楽しむかというのも同じくらい大事。
開放的で景色の良い「天茶台」で友人と談笑しながらあっさりとした水出しを楽しむのも良し、厳かで神聖な「杜の茶室」で静かな時の流れを感じながら濃いお茶を飲み瞑想にふけるも良し。
嬉野にお越しの際は色々な場所や味を自身の体で「経験」してみて下さい。「知識」だけでは味わうことのできない濃密な時間が詰まっています。
過去から未来の「嬉野」に繋げる
先程の二つの茶室を紹介したように、今嬉野ではお茶を単なる「飲み物」としてではなく「観光資源」の一つとして楽しんでもらえるような取り組みを広げています。
昔に比べ、お茶を飲む人が減ってしまった今、改めてもう一度「お茶の楽しみ方」から人に伝え、広げていく必要があるのでしょう。
実際僕もここ嬉野までやってきて、お茶の作られる過程を見て、最高の場所でそれを楽しんで、すっかりお茶の魅力に魅せられてしまいました。
ネットで何でも見ることができて選択肢も多い今、こうした「自分ごと化」を進めることのできる力を持った土地は強いと感じますね。訪れた人がファンになって帰っていく、仕組みづくりが大事。
「嬉野にはまだまだ広大な茶畑が広がっているので、この景色を活かし茶畑を一望できるカフェを作りたい。」と語る現地の大学院生の想いに、聴いているこちらがワクワクしてきてしまいました。
過去の伝統ある「飲むお茶」から、現代の「見るお茶」「触れるお茶」という新しい楽しみ方が生まれようとしています。
新幹線で繋がる嬉野
そんなお茶の名産地として長い歴史を持つ嬉野ですが、2022年には九州新幹線長崎ルートの一つとして嬉野温泉駅という新設の駅が開業します。
今回特別に建設予定中の新幹線の線路を設置する陸橋の上を歩かせてもらえることに。人生に一度あるかないかの経験なので否が応でもテンションが上ってしまいますね。
とても嬉しそうな最所 (@qzqrnl)さん。
僕も取り敢えず手近な円柱に乗ってしまいました。
「駅を作れるなんて、そうそうできる経験じゃないと思うんですよ。」と笑顔で語る嬉野の開発プロジェクトの方々。
せっかく今高い建物がない場所なので、駅も薄く横長に、広い青空を邪魔しない設計で考えているとのこと。
茶畑は過去からのバトンですが、新幹線は今から未来に繋げるバトン。お話した嬉野の方々のアイデアや努力によってどんな新しい駅が生まれるのか楽しみです。
駅が完成したら、今度はこのレールの上を新幹線で走ってここまで戻ってきたいと思います。
知っているけど、知らない世界。
スマホを指で触れば世界中どこでも画面の中で「知れる」今の世界。誰でも等しく情報にアクセスできるようになった今、相対的に「知識」の価値はどんどんと落ちていっています。
冒頭のスティーブ・ジョブズの話に戻りますが、『旅の過程にこそ価値がある』。単純に知っているというだけじゃなく、実際にその場所に行って、モノに触れて、人と話した「経験」にこそ価値があり、体の中に残ります。
「お茶」というモノに関してはもちろん僕も日本人なので知っていましたが、今回の嬉野の旅を通してようやくストン、と自分の中に落ちてきた気がします。それはきっと実際に見て触れて楽しみ方を教えてもらって、自身の「経験」として染み込んだから。
今年の夏は暑くなりそうなので、水出しのお茶を一本、東京の家の冷蔵庫に用意しておこうと思います。
地域とメディアを繋ぐ新しい取材のかたちを実現したい!#mediacruise – CAMPFIRE(キャンプファイヤー)
後編、有田の記事はこちら!
「変化」を受け継ぐということ。 "mediacruise 佐賀 有田編"[PR]
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